2007年8月24日金曜日

ウズベキスタンの議会制度

17日からウズベキスタンのタシケント国立法科大学の学生たちとの交流セミナーに参加しており、そこで知ったウズベキスタンの政治制度についてちょっと書いてみる。

おそらく、ウズベクの政治制度についてネット上でこれほど詳しく言及するのは日本初なんじゃないか、なんて思ったり。
少々あやしいところもあるかもしれないが、かの国で名門であるところの、唯一の法科大学(法学部設置大学は他にもある)の学生の言ったことをもとにしているので、まあ信用に足るのではないか。


大統領
まず、ウズベキスタンの元首は大統領である。
大統領は、国民からの直接選挙で選ばれ、任期は7年(従来5年)であり、1991年のソ連崩壊・ウズベク独立時から一貫してイスラム・カリモフ氏が務めている。

国民投票で選ばれる大統領には、多大すぎるといってもよい権限が集中している。
ウズベキスタンの大統領制は、現在も続くフランスの大統領制、すなわちフランス第五共和制をベースにしているらしいが、危難への対策として打ち立てられたため強権的大統領を有するこの政体に比べてもなお、一層の権限が彼のもとにある。
以下、大統領の権限を列記してみる。

・行政の長である首相を含む内閣諸メンバーの指名。
・上院議員の100人中16人分の任命。
・下院の解散。
・地方行政の長である首長の任命。
・法案提出権、および最終的な法案の承認。
・憲法裁判所以外の裁判所裁判官の推薦・解雇。
・特権として、退職後に終身上院議員の資格(ただし、前述したように、ウズベキスタンに大統領はいない)。

下院の解散は、おそらく大統領権と立法権の分立に配慮してか、憲法裁判所への相談が必要だそうである。
また、大統領に任命された地方自治体の首長は、地方議会の議長も兼ね、更に、より下位の自治体の首長を任命する権利を有する。


議会
ウズベキスタンは、かつては一院制だったが、現在は二院制を採用している。
国会は総称してオリ・マジスと呼ばれ、国民から直接選挙される下院(コヌンチリックパラタス、立法議会)と、各地方からの間接選挙と大統領の任命による議員からなる上院(セナット、元老院?)からなる。
任期は両院とも5年である。

下院は、おそらく小選挙区類似の選挙制度で、計120人が選ばれる。
立法議会という名称からも分かるように、国会議員でも法案の提出権を持つのは課員の代議士のみである。
また、上院と下院がある法案について対立した場合も、下院がある程度優越する。この点は、大統領が関わってくることを除けば、大体日本の制度と同じである。(ただし、両院協議会では両院計2/3以上の賛成が必要。詳しくは後述)

上院は、12の地方自治体とタシケント市、およびウズベク国内の自治共和国であるカラカルパクスタン共和国から各6人×14の小計84人と、大統領が権限によって任命する16人の計100人からなる。
上院の特殊な権限として、大統領の指名を受けた内閣諸大臣の承認、同じく大統領の推薦を受けた各裁判所裁判官の承認などがある。
前にも述べたが、上院は下院とは違い、法案提出権を持たず、その承認手続きに関わるのみである。
上院議員は、各地方自治体の地方議会から選ばれるらしいが、それがどのようなプロセスを踏むものなのかはあまりハッキリしない。

大統領・上院・下院の関係、特に立法をめぐるそれはかなり複雑である。
まず、国会への法案提出権を有する機関が多い。
具体的には、大統領、カラカルパクスタンの議会、下院の代議士、内閣、憲法裁判所、高等裁判所、最高経済裁判所、検事総長がそれを有する。
これらの機関によって提出された法案は、まず下院の審議にかけられる。法案先議権とでもいうのだろうか。
これが賛成多数で可決されると、次は10日以内に上院で決議を出さねばならない。ここで承認され、更に大統領の賛成も得られれば、法案成立である。

では、上院で賛成を得られないとどうなるのか。(ケース1とする)
この場合、一つ目の方法として、再び下院に差し戻した上で2/3以上の賛成が得られれば大統領の承認プロセスに移行できる。
ふたつ目の方法は、両院協議会(むこうの訳では協賛委員会の開催である。
この場合、上院と下院から選ばれた一定数のメンバー(全員ではない)によって組織される両院協議会が開催され、ここで2/3以上の賛成が得られれば、大統領の承認なしで法律を発効できる。

大統領が反対した場合(ケース2)は、上院・下院の各2/3以上の賛成をもってその賛成にかえることができる。

ここでも大統領の権限の強さがよく分かる。
実際にどのような運用がなされているのかは分からないが、この制度下において、大統領が特定の法案に反対した場合、それを通すのはほぼ不可能であろう。

各ケースごとにみた場合、通常の立法過程、およびケース1の一つ目では大統領の賛成が不可欠であるし、ケース1のふたつ目、およびケース2では、上院の2/3以上の賛成が不可欠である。
この上院の2/3というのが厄介で、上院の2/3といえば33人だが、このうち16人は大統領が任命するのであるし、大統領は直接任命する地方自治体の首長(地方議会議長を兼務、前述)を通じてその他の上院議員へも影響力を行使できると考えると、ここでも事実上大統領の意向が決定的な要因となっているといえるだろう。

ただ、じゃあ大統領は完全無敵かといえばそうでもなさそうで、だって大統領とは独立した上院が法案先議権を有するかぎり大統領の提出した法案が必ず通るとも限らないからなあ。でも解散権があるし、そもそも野党らしき政党がほとんどいないらしいので、まあ発展途上国の開発独裁にしては民主的かなあ、と、そういう見方が正しいのだろうか。

やっぱり大統領かなり強いけど大丈夫なのかねえ、ということをむこうの学生に言ったら、民意の反映よりも国の成長だというような趣旨のことをやんわり言われた。

まあむこうの事情もあるだろうし、その考えには基本的に賛成するとしても、しかし例えば確立された制度は変革が難しくて圧制者が来た時に困るとか、あるいは多数の利益というのがマイノリティーの弾圧の上に成り立つことがあるとか、そういう不測の事態も考えて頂きたい今日この頃なのであった。

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