製造物責任法
東海林さだおはいい加減「千の風」ネタを自重すべき。飽きた。(こんばんは)
今年度はゼミ発表が最初なので、目下レジュメを作成中。
僕の所属ゼミは民法ゼミで、特定の分野における判例をいくつか検討し、各判例の是非、その分野における解釈基準なんかを導き出しているわけです。
昨年度は「特定継続的役務提供契約における中途解約」というのが課題の分野として割り当てられており、例えばNOVAの事件や声優学校の事件を扱いました。
で、今年度の割り当ては、ズバリ「製造物責任」。
最初の判例は「東京地判平14・12・13判タ1109号285頁」。イシガキダイのアライ(刺身の一種)や兜の塩焼きを食べて食中毒を起こした原告らが、その料理を提供した割烹料亭に対し、製造物責任法に基づいて損害賠償を請求した事件です。
製造物責任法と聞くと、工業製品が主たる対象になっているような印象を受けますが、レストランなどで出される料理にも適用があります。また、製造物責任法で責任を負わされる「製造業者等」には輸入業者も含まれるため、例えばメタミドホス入りギョウザを輸入したJTフーズなんかも、食中毒の被害者から訴えられれば責任主体になりうるというわけですな、おそらく。
もう少し詳しく説明しましょう。せっかくレジュメにもまとめてあるわけだし。
(以下、引用タグで囲まれている箇所は特にことわりのない限り僕の作ったレジュメから引用したもの)
事案の概要
X(原告)らが、Y(被告)の経営する割烹料理店において被告が調理したイシガキダイ料理を食したところ、これに含まれていたシガテラ毒素を原因とする食中毒に罹患。
Xらは、これによって損害を被ったとして、被告に対し製造物責任(製造物責任法3条)又は瑕疵担保責任(民法634条2項)に基づき、診療費、休業損害、慰謝料等の損害賠償を求めた。
※・シガテラとは、熱帯の海藻に棲息する鞭毛藻により生成される毒が食物連鎖により魚に蓄積され、それを人が摂取することによって起こる食中毒です。イシガキダイのほか、食用魚ではカマス、ブリ等によっても発生のおそれがあります。中毒魚の予測は困難であり、中毒魚は外見では判別できません。また、調理によって中毒を防ぐことはできません。ちなみに「HEROスペシャル」でキムタクがイシガキダイをスイカで釣ろうとしていましたが、イシガキダイは肉食であり、スイカでは釣れないという説が有力です。
主な争点と当事者の主張
・イシガキダイの調理が、製造物責任法上の「加工」の概念に該当するか。
原告「Yの調理行為は、食材に手を加え、料理としての新しい属性・価値を加えたものであって、法にいう『加工』に当たる。」「Yは、危険な状態を制御し、あるいは除去することができたにもかかわらず、飲食店で提供する料理として本件料理を提供した以上、本件イシガキダイの有していた危険な状態を高めたといえる。」
被告「法は絶対責任、結果責任を求めるものではないから、法にいう『加工』というためには、製造業者が製造物の危険を回避し、あるいは発見、除去できる程度に関与したことが必要である。」「Yは、シガテラ毒素を発見、除去できる程度に関与していたものではなく、その危険性回避がYの手に委ねられていたとはいえないから、Yの調理行為は法にいう『加工』ではない。」
・上記が肯定される場合、法4条1号の免責(開発危険の抗弁)が成立するか。
原告「法4条1号の『知見』とは、特定の者の有するものではなく、客観的に社会に存在する知識の総体を指すものであって、入手可能な科学・技術の最高水準とされる。これら入手可能な知識によれば、本件イシガキダイがシガテラ毒素を有していると予見することは可能であった。」「本件のような場合に飲食店の法的責任を認めても、共済・保険制度による損害填補の手段を活用することによって危険に備えることができるため、妥当性を欠くことはない。」
被告「本件食中毒の発生当時における科学技術の最高水準の知見をもってしても、本件イシガキダイがシガテラ毒素を有していることを発見、認識することは不可能であった。」「本件のような事案にも開発危険の抗弁が認められないとすると、世界のどこにも報告例のない食中毒が発生した場合でない限り、飲食店は無過失で損害賠償責任を負うことになり、あまりに酷、不合理である。」
この他にも「欠陥」概念に該当しないとか、そういう主張もあったようですが、ここでは省きます。
裁判所の判断
・「加工」の概念に該当するか否かについて。
一般論として、「法にいう『製造又は加工』とは、原材料に人の手を加えることによって、新たな物品を作り(「製造」)、又はその本質は保持させつつ新しい属性ないし価値を付加する(「加工」)ことをいうものと解するのが相当である。」食品の加工については、「原材料に加熱、味付けなどを行ってこれに新しい属性ないし価値を付加したといえるほどに人の手が加えられていれば、法にいう『加工』に該当する」。
本件においては、「Yの調理行為は、原材料である本件イシガキダイに人の手を加えて新しい属性ないし価値を加えたものとして、法にいう『加工』に該当する」と述べて製造物責任を肯定。
また、Yが製造物の危険を回避・発見・除去できる程度に関与していないという主張を、「Yの主張するところは、結局、製造業者の過失の立証を求めるのと異ならない」と述べて排斥。
・開発危険の抗弁が成立するか否かについて。
「法4条1号にいう『科学又は技術に関する知見』とは、科学技術に関する諸学問の成果を踏まえて、当該製造物の欠陥の有無を判断するに当たり影響を受ける程度に確立された知識のすべてをいい、」「当該製造物を製造業者が引き渡した当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準がその判断基準とされるものと解するのが相当である。」
本件では、「YがXらに本件料理を提供した当時において、入手可能な最高の科学技術の水準をもってしても、本件料理にシガテラ毒素が含まれるとの欠陥があったことを認識することはできなかったことの証明があったものとはいえ」ず、「既存の文献を調査すれば判明するような事項については開発危険の抗弁が認められる余地はないと解すべきである」。
で、原告への損害賠償が認められました。額は1人当たり300万を超えることはなかったと記憶しています。死者とか出てないし。
ここまで来ると、ゼミでもほぼ議論の余地なく被告の責任が肯定されそうな気がします。無過失責任を定めたPL法で、しかも開発危険の抗弁はそうそう認められないわけですから、ねえ。
学説では、判タ1133号54頁において、浦川道太郎先生が判決と反対の立場をとっておられます。「欠陥」概念に注目されています。(しかしそれを「欠陥」ではないといったら、ほとんどすべての食品がPL法の範囲外に置かれてしまうんじゃないだろうか。もっと厳密に定義すれば別だけど。)
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